「クルト・レビンの力の場の分析理論」では、組織の発展を推進しようとする力と、発展を規制しようとする力が拮抗しているとき、組織は凍結状態となり、これを打破するには、推進力を拡大するより、規制力を弱くするほうが手をつけやすく、効果があると言っている。これはマーケティングにも使える。

何が我がブランドの売上拡大の規制力になっているのか、何をすれば我がブランドの推進力を向上させることができるかを正しく分析することから、マーケティングの方向性がわかってくる。

我がブランドに働く規制力は、ブランド自身の問題点もさることながら、このブランドに対する組織全体の消極性やネガティブなイメージが大きく影響していることがある。ブランドをよくする(改良する)ということは、切り口を発見して、改良開発を実現すれば打開できる。マーケと開発と生産技術の協力(少人数の努力)で何とかなる。

しかし、組織全体に漂う規制力を弱める方策というのは、しばしば組織の基本理念や基本目標、基本戦略を根本から見直さねばならないことが多いので、はっきりいってプロダクトマネジャーやブランドマネジャーの手に余る。

ここはトップマネジメントとマーケティングマネジャーの出番である。自ら身体をはって指揮して、我が事業が発展するには、どのような阻害点を打開するべきか、どのような会社の財産(人材、技術、ブランド)をどのように活用するべきか、明らかにしなければならない。経営幹部全員を引き連れて、根本的な問題解決に取り組まなければならない。

トップやマーケティングマネジャーがこの問題解決に正面から取り組もうとするとき、あるいは、これらの根本的問題をまねいた組織体質の問題点を真剣に掘り下げていくとき、その分析と評価(自省)が正しいものであれば、それは次第に組織全体の意識改革へとつながっていく。

しかし、この「意識改革」には、多くの説得が要る。環境の認識、問題点の認識についての議論やコミュニケーションが要る。トップだけわかっても、全体の意識は早々には変わらない。

熱意ある説得の繰り返しと、場合によっては意識を変えさせるため、戦略整合性のある正しい行動を社員全員に命令(強制)しなければならないときもあるだろう。

マーケティングカンパニーになっていく基本条件には、上記のような抜本問題の解決を必ずやるというトップの決心がどうしても必要になる。トップを補佐するマーケティングマネジャーの手腕が問われるときである。基本的な方向が自信を持って打ち出されれば、会社は変わる。わかる人々から積極的な提案や自主的な活動が起きてくる。

マーケティングをやるということは、トップマネジメントの仕事をやるということになる。少なくともそういう意識は必要である。

(2012年11月度MODコラム「壁を破る」長井和久)より