1.マーケティングメモとは
「マーケティングメモ」とは、マーケティングの各場面で生み出されるA4で2~3枚の企画提案書である。製品コンセプト変更、製品改良、ブランド・ポジショニングの見直し、パッケージのリニューアル、販促企画の提案など多岐にわたる。
マーケティングメモが制度化されている企業では、部員は会議の度に企画を出してくる。しかし、個人が書いたメモがそのままマーケティングの原理原則や、その企業特有のノルムに則っているかどうかは疑問である。上がってくるマーケティングメモがしっかりしていることが、その会社のマーケティングがしっかりしている証拠になる。
2.マーケティング技能
プロダクトマネジャー、ブランドマネジャーに選ばれる人には、まずマネジメントセンスがよいことが求められるが、マネジメントができることは当然の前提であって、やはり直接的には、切れ味の鋭いマーケティング技能を持っていることが求められる。
高度なマーケティング技能を身に付けるには、まずマニュアルで基本技能をしっかり学び、その後、実戦で活用し、反復して、能力を高めていく必要がある。しかし、一般には自社のマーケティングのインテリジェンスを整理し、体系化したマニュアルはなかなか与えられない。
基本技能の解説マニュアルのあるなしは、若手の早期育成において大きな差になるし、やがて企業間のマーケティング力の差になる。このギャップは、今からマーケティングカンパニーを目指す企業の大きな悩みになっている。
3.マーケティングメモの磨き上げ
若い人の初めのマーケティングメモは概して着想はよいが、どうしても思考のプロセスが粗雑になる。自分の着想(思いつき)に自惚れていることもよくある。ヤル気はあるし、アイディアに面白いものがあるにもかかわらず、である。
しかし、まず本人に書くだけ書かせて(それは恐らく4回や5回は書き直しのメモになるが)、それを上司に上げさせる。会社のルールにする。
ここから先が実力のある上司の出番である。上司のそのまた上の上司が加わるとなおよい。一言、一言をチェックする。原理原則に則った考察であるか、科学的アプローチに抜けはないか、大局からも小局からもチェックするし、微細なコンセプトの表現、イメージ用語の選び方についても、ひとつひとつ吟味し、添削する。赤とか鉛筆で直しを書き込む。
4.マーケティングの吸収
当然、部下は反論するだろう。議論になる。ここで上司と部下がマニュアルを共有していると、この議論は生産的になる。
自社のマーケティングの成功と失敗から導き出された体系とノルムがマニュアルになっているのが理想だが、そういう企業は少ない。この議論のとき、先進企業の体系とノルムを引っ張り出し、判断基準にする。積極的に活用する。リアルな企画提案書を前にして、上司と部下が必死になってマーケティングの原理原則を解釈し、応用し、議論するのがよい。1回1回、自社のマーケティングに当てはめて考える。一番効果的なマーケティングの吸収になる。本当のOJTになる。
5.マニュアルの共有とレベルアップ
部下が上げてきた生の提案書を材料にして、上司と部下が生産的に議論をするには、常日頃からマーケティングのマニュアルを身近なものにしておく必要がある。それとともに、このような部下指導を上司の責務とし、それを人事評価する制度が要る。上司のマーケティング能力が優れたものでないと成り立たない。上司も部下も「プロダクトマネジャー養成講座」を受講していることが望ましいし、職場で「プロダクトマネジャー・マニュアル」の輪読会をしているとなおよい。
こうして14回から15回書き直しされた「マーケティングメモ」は多くの場合、そのまま承認されて、マーケティング・プランになる。それは磨き上げられて会社の総智をあげたプランになっているからである。起案者の責任と権限で実施されることになる。
成功なら成功でその要因を共有するし、失敗なら失敗で、それは口惜しい限りの失敗になるが、その原因を後から上司と職場で追究し、共有する。これが新しいマニュアル(生きた事例)になる。こういうやり取りが会社の各所でいつも繰り返されることが、マーケティングカンパニーの条件になる。
■「マーケティングメモ」についての参考文献:「P&Gのブランド戦略」~スーパーカンパニーに見る99の成功法則(P.92~107 儀式:メモおよび会議)チャールズ・L・デッカー著 市橋和彦訳 ダイヤモンド社
(2010年11月度MODコラム「マーケティングメモの壁」長井和久)より