マーケティング課長は、他の部門の課長と違って多くの役割責任を負う。
まず第一に、メンバーおよび関係者に会社のビジョン(理念や基本目標)を翻訳、説明、共有し、ビジョンをブランドに反映していく、ブランド開発・改良の方向付けの役割を果たさねばならない。
部下のブランドアシスタントたちに対しては、マーケティングのイロハを教えなければならないし、仕事の管理(マネジメント)の基礎も教えなければならない。マーケティング部の仕事には定型業務は少ない。ひとつひとつ創造的な(クリエイティブを必要とする)仕事ばかりである。
創造的な仕事をさせるには、部下の自律性というか主体性を発揮させなければならない。部下の人間尊重および動機付けと適確な長所の評価が要る。定型業務を教えるマネジメントと比べれば、おそらく3~4倍ものメンテナンスとフォローが必要となるだろう。創造性を発揮させる、つまり知的生産を重ねていく仕事には、高度のマネジメント能力が必要になる。
マーケティング課長には、「マーケティング能力」と「マネジメント能力」の両方に優れている人を選ばなければならない。適性のある人を選び、早くから特別にこの2つの能力の開発(経験)を積み重ねていかなければならない。
組織が持っているマーケティングの体系とノルムを効果的に教える仕組みは必要だし、上司からのOJTも大切であるが、本人の情熱と集中的な自己啓発が何より必要となる。マーケティング課長になるには、それなりの覚悟が要ることになる。
課内のブランドアシスタントたち以外にも、開発部門、生産技術部門、営業部門、購買部門や社外のデザイナー、広告代理店、調査会社など多くの人々を一定の方向に導いていく総合プロデュース能力が要る。そういうリーダーシップが必要である。
課長自らが消費者インサイトを追求し、未充足のニーズを発見し、これをコンセプトにする最も重要な知的生産の責任と責務を負いながら、四方八方のキーマンとの良好なる人間関係を築いていかなければならない立場に立つことになる。課長の人間性とリーダーシップは、企業イメージにもかかわる。
もし、マーケティングは多少わかっているのだが、マネジメントについては音痴というような人をマーケティング課長にしてしまうと、そのマーケティング・チームは大渋滞を起こしてしまう。(もっともマネジメントがわからなければ、マーケティングはわからないだろうが。)部下がくさって仕事をしなくなるのはもちろん、社内外のキーマンとの関係が悪化する。誰が何をしているのかわからない状態になる。
マーケティング課長の候補者には、若いうちからマネジメントの基礎を叩き込んでおかなければならない。マーケティング課長に適任者を選び、正しく育成し、連繋させ、登用すると、会社は著しい発展をするが、不適者をマーケティング課長にしたりすると、トップやマーケティング部長はおそらく厳しい立場に立たされるだろう。組織は大きく後退する。
(2012年12月度MODコラム「マーケティング課長」長井和久)より