クルト・レビンの力の場の分析理論によれば、組織は「組織を変えようとする推進力」と「変えることに抵抗する規制力」とが拮抗していると、停滞状態(まるで凍結しているような状態)になるとしている。このクルト・レビンの力の場の分析理論は、マーケティングの組織開発においても顕著に現われる。

マーケティングの組織開発は、ときにトップ・準トップ、主要ミドルの今までの製品開発や営業のやり方を全面的に変えねばならない、もしくは、大部分、改めてもらわねばならないという根本的な問題に突き当たるからである。

ここを抜け出すには、①推進力を高める、②規制力を緩和する、③この①と②を同時に仕掛けるというアプローチがあると言われているが、①の規制力を凌ぐほどにマーケティングの推進力を高めるというのは、現実にはなかなか難しい。それほど簡単にマーケティングの体系とノルムはわからない。ましてや、相手にわからすことは、なお難しい。

だからといって、我が社はマーケティングについて何も知らないかと言えば、それはそうでもなく、製品開発についても、営業力の強化についても、今までの経験のよいところを素直に出せば、現状を改善できるほどの知識や情報は、実はいろいろ持っているものである。人もいる。全く何もないという会社はない。

問題は、規制力の緩和である。トップや準トップや主要ミドルの首に鈴をつけるのは、誰もやりたくないし、危機的な状況は別として、一般的にやらないほうがよい。規制力が倍加するだけである。

規制力の緩和に効果的な方法がある。それは、このクルト・レビンの力の場の分析理論を個人に当てはめて運用するという方法である。

個人の場合、推進力とは自分の長所の発揮であり、規制力とは自分の短所(特に長所の過剰使用)である。短所というのは急には直らない。余程の反省とか、信頼する人の厳しいチェックがないと直らない。

ではどうすればいいかと言うと、答えは、長所の発揮の回数で、短所をカバーするのである。とにかく長所を数多く発揮して、短所を補ってしまう。失点はするが、それ以上の得点をあげてそのゲームを勝利に導く。乱打戦になっても、勝ちは勝ちである。2つ、3つと勝ちが出てくると、失点を抑えて、少ない得点で勝つ方法もわかってくる。

このような勝ち方を部下にもさせる。部下育成である。上司にも長所の発揮の回数で短所をカバーしてもらう。上司の補佐である。同僚への協力も、この手で行く。ここから本当のマーケティングの組織開発が始まると思うのであるが、いかがだろうか。

(2009年6月度MODコラム「長所の発揮がカギ」長井和久)