マーケティング政策の中で常に優先順位1位におかねばならないのが「顧客密着対策」である。既存の顧客のニーズに密着し、より価値ある商品をより早く届けるための改善を毎年、毎年、優先順位1位で取り組んでこそ、繰り返し購入が促進され、ベースとなる売上が獲得できる。これがないと不安な経営になる。

顧客のニーズに密着する中で、既存商品・サービスの改善改良の本当の課題が見つかる。現在のやり方で限界があるのなら、それは新製品・新サービスで対応するべきである。この取り組みは、正攻法の製品改良開発および新製品開発になる。

顧客密着において他企業に破れるような企業は、マーケティングの足腰の部分で既に負けている企業である。

顧客密着というと、何か新しいマーケティング手法が要ると思っている人が多い。何か新しい、よい方法があるのですかと聞き耳を立ててくる。しかし、顧客密着は毎日の生活の中にある。我々は企業人であると同時に、毎日の生活では一人の消費者である。

マーケティングの体系とノルムを使って、日常生活の中で主体的に顧客密着を行なえば、それは送り手(メーカー)と消費者の両方の立場から商品を使ってみるということになる。この視点の変更でマーケティングの感度は一度によくなる。

ほとんどの製品・サービスの消費地は、家庭であることを忘れてはならない。生活感覚を鋭くして、1つ1つの製品機能やテレビ宣伝、新聞宣伝で何を訴求しているかをチェックしよう。使って満足なら、満足に至った仕組みとかプロセスを振り返ってみる。

その商品を製品分解してみれば、その成功商品を生み出したマーケターの着眼点や技術を現物で知ることができる。秘められた意図がわかることが多い。

その商品があとで新聞や雑誌に取り上げられて、成功談などが語られたりするなら、なお、着想から開発に至る苦労や工夫がわかる。どこがポイントであったかもわかる。

家族を顧客としてみる。家族の満足が何によるものか、その満足・不満足の原因がどこにあるのかをタイミングを見計らって聞き出す。

友人に聞くのもよい。友人の家族、その家族の友人の感想まで、情報入手することは可能である。友人と仕事の話をすれば、友人の会社の顧客密着の考え方や、やり方の情報を得るよい機会になる。

商品開発のB to Bであっても、B to Cであっても、どの企業も生き残りには必死であり、今日、生き残っているのにはそれだけの理由があり、必ず、顧客密着に苦労した経験が残っている。帰納法的に、喰っていくために必死で苦労した跡が製品やシステムとして残っているはずだ。

その会社が取り組んでいる最新のテーマはわからなくても、今までの苦労のエッセンスは聞き出すことができる。何故その会社は繰り返し注文を獲得しているのか、その会社なりの歴史的な、そして、実際に効果をおさめた創意工夫点を聞き出すことができる。但し、適切な質問は要る。

以上のような取り組みの上に、店頭観察や現物比較、売れる/売れない分析、作り込みのSPの観察など、プロの眼による分析(科学的アプローチ)が加わるならば、一挙に仮説創造のレベルを向上できる。局面打開の能力がつく筈だ。少なくとも、頭一つや二つは抜け出すと思うのだが、いかがであろうか。

(2009年8月度MODコラム「顧客に密着する」長井和久)