プロダクトマネジャー・マニュアルは、「マーケティング」と「組織開発」が2大層流となっているが、マーケティングには3本の柱があるとして案内してきた。

1.製品開発の基礎情報を整理し、マーケティングのインテリジェンス(重要情報)を抽出する科学的アプローチの方法
2.売れる製品開発の手順
3.エリアマーケティングの進め方

ところが2006年の中頃から、「2.売れる製品開発の手順」については、次第にブランド・ポジショニングに重心が移っていく。今では、2.は「ブランド・ポジショニング3次元設計図の解説とその応用」が中心になっている。

このような変化が起きたのは、ブラッドフォード.C.カーク著、田中洋監訳、山本暎子訳「世界最強CMOのマーケティング実学教室」ダイヤモンド社 2006年刊の中にある、次の著述に出会ってからである。

『ブランド・ポジショニングは、ターゲット消費者の心の中にそのブランドが占める位置として表現されることが多い。ある一点の座標を決定するために、x軸、y軸、z軸から成る三次元グリッドを考えてほしい。

第一の軸は、消費者による製品カテゴリー、あるいは、そのブランドが属す競合セグメント。たとえば、バター、家具磨き、ハミガキなどの製品カテゴリーである。

第二の軸は、「ブランド・コンセプト」とも呼ばれる、消費者への約束。「赤みが引く」「やさしく引き締める」「効果があるから、一日つけるのを忘れても大丈夫」などは、記憶に残る広告コピーになった、消費者への約束の有名な例である。

最後の、戦略的にも重要な軸は、そのブランドの「好ましい」特質である。すなわち、ブランド・パーソナリティだ。たとえば、大事に育てる、革新的、親しみやすい、といったものだ。』

それまでブランド・ポジショニングというのは、
「機能的ベネフィット」→(取扱い簡単のベネフィット)→「感覚的ベネフィット」→「心理的ベネフィット」と、「ナチュラル」→「ヘルシー」→「ピュア」→「フレッシュ」の2重の輪廻を頭の中に描きながら、
左右の手の親指・人差し指・中指を「フレミングの法則」の形にして、2重の輪廻の上をグルグル廻しながら、ある一点を直感でさぐり、そこをポジショニング・ポイント(仮説)とするような曖昧なものであった。

皆でこれをやると、仮説があれこれ出てきて会議は紛糾する。時間をかけて整理し、仮説を検証しなければならない。コンセプトの中心になるベネフィットの検証には、リサーチを使って合わせ読みをしたり、試作品のユーステストでその価値を確認したり、途中で変更案が出たり、行ったり戻ったりするのが普通である。

しかし、最後のポジショニング・ポイントの決定については、流れの中で「エイ・ヤー」と直感に頼るところが多かった。「売れる/売れない分析」との合わせ技で相当カバーはしたつもりだったが、はっきり言って一つの賭けになってしまうことは否めなかった。

権限と責任を持っているプロダクトマネジャーやブランドマネジャーの立場であったら、状況によっては、こういう仕事の進め方(エイ・ヤー)も許されることはあるかもしれない。しかし、コンサルタントの場合だと、一度に信用を無くしてしまうだろう。

それが、ブラッドフォード.C.カークが、x軸は製品カテゴリーであり、y軸はブランド・コンセプト、z軸はブランド・パーソナリティであるとはっきり言ってくれたことで、ポジショニング・ポイントを論理で詰めていく手掛りが得られたのである。たいへん驚いたが、瞬間的に「3次元設計図」のあらましを直観した。

2007年(第15回)のときはおぼろげながら、2008年(第16回)、2009年(第17回)にはほとんど現在のプロダクトマネジャー・マニュアルに掲載の手順と同じように、3次元を2次元の図表3枚にバラして、2次元の図表上で整合性ある交点A,B,CからPを探り、Pから逆にA,B,Cを引き付けていく収束法を考え出し、その使い方を案内するようになった。

「ブランド・ポジショニング3次元設計図」と「収束の方法」を考えついたことによって、「プロダクトマネジャー・マニュアル」の芯ができたように思える。苦節20年にして、ようやく頭の中の霧が晴れたというか、何か一つ責任を果たしたというような、ほっとした気持ちになったのである。

詳しくは〔第Ⅵ章 製品開発の実際〕に掲載の手順に沿っていろいろ試してみてほしい。ピタッとくると、パッケージもネーミングもヘッドコピーも広告コピーもスッキリする。会議であれこれ踏み迷うようなことはもうなくなる。高度な知的生産が可能になる。

(2010年8月度MODコラム「ブランド・ポジショニング3次元設計図 誕生のいきさつ」長井和久)より