「私は何のために生きているのか」「私は何のために働いているのか」の問いに真正面から答えねばならないとしたら、一瞬、多くの人は困るだろう。それには主体性、つまり自分の長所を最大に発揮する決心が必要だからである。理性に基づく、創造的活動になる。いろいろ迷うこともあるだろうし、しんどい作業になる。自分の人生設計の根本を明らかにする一大知的作業であるから、考えたり、悩んだりするのは当然である。

一方、企業が「我が社は何をする会社か」「我々は何のために働いているか」を社内外に明らかに表明するのが経営理念である。10年先、20年先にどんな製品やサービスを提供し、どんな規模の会社になるかの方向性と目標数字を示すのが基本目標である。経営理念+基本目標のことをビジョンという。これを決めるには、強い理想と創造力が要る。

ビジョンは、企業のあるべき姿(理想)と到達すべき目標を示すので、一度決定されたなら、経営トップやミドルマネジメントがこれを日常行動レベルに翻訳し続けることが求められる。すると、企業に所属する人々はビジョンに沿った思考と行動をとるようになる。

ビジョンが明確であると、事業を構成する各製品のブランド・ポジショニングもこの方向に従うことになる。一個の製品(ブランド)のブランド・ポジショニングは、その製品(ブランド)の経営理念+基本目標を示すものと言ってよい。

プロダクトマネジャーやブランドマネジャーがビジョンをよく理解し、担当製品(ブランド)のブランド・ポジショニングを明確に示すことができれば、マーケティング内部も、開発も、生産技術も、営業も、自分たちのクリエイティブの方向をひとつの有効なポイントに集中することができる。

もし、アバウトなコンセプトで人々に協力を求めたりすると、人々はそのブランドの存在価値の強化とは異なるいろいろな方向で、あるいは我が社の発展には関係のない方向で創意工夫や新着想を開始してくる。自分が立案した案は可愛いから、我を張ることも起きてくる。企業のビジョンと異なる製品コンセプトも出てきて、なお混乱が増す。会議は紛糾する。生産性は低い。

プロダクトマネジャー、ブランドマネジャーは、まず、企業のビジョンを確認し、ビジョンを実現する方向で思考を開始しなければならない。その上で、担当製品(ブランド)を取り巻く環境を確認し、その中から確かなブランド・ポジショニングを創造していく。プロダクトマネジャー、ブランドマネジャーの正しいブランド・ポジショニングによって、企業の知的生産性は高まる。

(2010年12月度MODコラム「企業ビジョンとブランド・ポジショニング」長井和久)より