1.小集団の科学的アプローチ

マーケティングを短期間で我が社のものにするには、基礎を教えながら、一方で実際問題について小集団(4~5人)で科学的アプローチを経験させることが、一番効果がある。

「基礎」とは原理原則、つまり現代経営実践理念、マーケティングの基礎、マネジメントの基礎のことである。マネジメントにはODの体系とノルムが含まれる。

小集団による科学的アプローチとは、ある実際問題について、現場・現物・現実の事実を蒐集させて、主に事実を因果関係(原因と結果)と、目的と手段の関係で整理させて、仮説を立てさせ、その仮説をもう一度事実で検証させる、一連の活動のことである。

2.事例研究の限界

実際にあった事例を文章化しておいて、少人数でその問題を解かせる演習の方式も、基礎の理論や応用の技法をより解からせるという点では効果があるが、過去問よりは現在の生の問題のほうが、はるかに参加者の意識(やる気)や実際問題解決能力を高める度合いが高い。その問題が自分たちの職場で実際に問題解決しなければならない問題の場合には、経験からいうと机上の事例研究よりは3倍から4倍くらいの教育効果があがる。

3.リアルプロジェクト・トレーニングの効果

なぜ3倍、4倍の効果があがるかといえば、それは職場の難問に関する事実を集め、分析して、答えを考えるというリアル感により、頭脳への刺激は最高潮となるからである。現実問題となると、我々の脳は本気になってくる。

しかし、はじめに基礎として情報の取り扱い方、つまり仮説とは何か、どんな意義があるのかについてや、その仮説を検証する科学的アプローチの方法とはいかなる考え方で、いかなる手順を踏んで結論に導いていくのか等について、論理的に理解させておかないと、どうしたらよいかのアイディアの議論だけで終わってしまう。はじめに基礎を教えておくことは、実務能力開発の出発点になる。たいへん重要である。

4.真似をさせて現実問題を解かせる

「知る」→「わかる」させておいてから、「いろいろやってみる」へ移行させる。「いろいろやってみる」のには、自己流では極めて効率が悪いので、はじめに正しく「知る」→「わかる」、つまり正しく「真似る」方法を教えておくのである。「真似をさせる」方法を簡単な事例研究(演習)方式にしておくのは、よい工夫である。マニュアルがあれば、なおよい。

しかし、本当の狙いは生々しい実際問題(リアルプロジェクト)の問題解決にメンバーの左脳と右脳をフルに使わせることにある。協力して知恵を絞り、絞らせるように仕向ける。リアルプロジェクトでないと、真に人材を育成できない。

5.合理的に真似をさせるために原理原則を教える

生々しい実際問題については、各自がそれぞれ思い込み(今までの経験や固定観念)を抱いているものだ。これを「仮説」とか「改善」という名目のもとに吐き出させる。これを整理させる。整理の途中でいろいろ揉める。揉めているときこそ、これを解きほぐすための原理原則について「知りたい」→「わかりたい」欲求が向上している。その揉め事の交通整理のためにマーケティングの原理原則やマネジメントの原理原則を教えて使わせる。本当のOJTになる。

6.改善案が出てくる

メンバーが仕方なく、あるいは相互理解によって、真剣に左脳・右脳を駆使して、「知る」→「わかる」→「いろいろやってみる」→「正しいことがわかるようになる」→「三人寄れば文殊の知恵で改善案(仮説)を出す」→「その仮説を検証する」作業に打ち込むと、彼らの実際問題解決能力は急速に伸びるし、事実、解決案(是非やってみたい改善案)が生まれてくる。

メンバーが是非やってみたいと思う改善案が出てくるのは、第一段階の「成果があがる」になるといえる。その改善案を実施してみて、実施状況の事実を集めて、それをまた科学的アプローチに持ち込むよう仕向ければよい。実際、新しい課題が発生すると、新しい情報(原理原則の解釈や運用の方法)を自主的に求めてくるものである。

7.同宿同飯の合宿研修が最も効果的

昼はフィールドワーク(現場での事実蒐集)、夜はその情報整理と仮説出しに当てる合宿研修は、最高のチームワークづくりになるし、最高のマーケティング人材育成のプログラムになる。同宿同飯方式は、人間と人間の知恵を結合させ、進化させる、たいへんすぐれた組織開発の方法である。

(2011年5月度MODコラム「基礎を教えながらワークショップする」長井和久)より