1.マネジメントの基礎力の差がマーケティング力の差になる

マーケティングがよくわかる会社と、わかりにくい会社がある。マーケティングは基本的に、①製品開発、②価格決定、③広告、④販売促進、⑤セールス活動のPlan→Do→Seeの体系である。①から⑤の各要素について、マネジメント・サイクルがフルに働く。マーケティングの教科書(テキスト)には、マネジメントの応用の技術が次々と紹介されることになる。

マネジメントの基礎がわかっていると、マーケティングの応用展開についてはじめから見当がつく。例えば、マーケティングの教科書(テキスト)を読んだり、講座を聴講するときに、Plan(計画)について述べてあれば、次にはDo(実施)がくるし、Doのあとには必ずSee(評価)がくるという心積もりができる。予め見当がついていると、一層理解できる。

「状況の原則」を理解していると、状況の判断にはマネジメントの原理原則と現代経営実践理念やマーケティングの体系とノルム、組織開発の体系とノルムが基礎になり、基礎を知っていると、自己の目的意識が一層明確になる。判断がシャープになる。つまり、情報感度がよくなる。社員の情報感度の差は、情報量の差になる。量の中に質がある。情報の差が企業力の差になる。

マーケティングのひとつひとつの理論について、これらが全く新しい概念で述べられていると思って学ぶのと、マーケティングの理論の背後には必ずマネジメントの原理原則が働いていると承知して学ぶのとでは、最初から理解力、吸収力に差が出る。学習力の差になる。

社員の基礎力を意図的に鍛えている会社は、マネジメントとマーケティングの基礎を大切にしている。このことについて、社員が後れを取ることを許さない。原理原則を繰り返し身に付けていると、それはそのうち組み合わさって、広く応用性のある得意技になる。得意技があると、戦いは有利になる。戦略、戦術の基礎になる。

2.主体性の壁と基礎力の壁

社員が主体的であるかどうかは、「基礎を理解し自分のものにする」ことについて積極的であるか、逃げ腰であるかの差になって表われる。

「基礎を学習する」「毎日の仕事に基礎を活用する、応用する」という自己啓発の第一歩を踏み出せないまま、「とりあえずの方法論だけ先に知りたい」という人々がいる会社がある。そういう人々が多い会社では、マネジメントにおいても、マーケティングにおいても現状を打破し、改革を起こそうとする考えや行動は出てこないだろう。

基礎の学習ははじめ、精神的にも身体的にも負荷がかかる。新入社員のときこそ、この負荷に耐えられる。しかし、逃げてよい環境に置かれると(先輩が逃げていると)、時が経つにつれ、逃避が習慣的な行動様式になってしまう。人材開発、組織開発の大きなネックになってしまう。

体力、気力(やる気、好奇心)が充実していて、時間の余裕がある新入社員時代に基礎力を訓練し、主体性の壁を越えさせることが、企業の人材開発、組織開発の基礎になる。基礎訓練を重視する会社は必ず伸びる。

3.訓練とは何か。誰がするか。何を教えるか

OJT(On the Job Training)とは「職場内で上司が部下を、先輩が後輩を指導する教育法」と訳されるが、Trainingとはもともと「馬を仕込んで乗馬できるようにする」の「仕込む」とか「仕付ける」という意味である。Trainingにはタイミングが重要であるが、マンネリになったり、逃げ腰になっている人を訓練するには相互に大きな負担がかかる。本人の自己啓発の意欲がそもそものOJTの条件である。

人間性を尽くし、理性に訴えて「自己との対決を回避しない」という決心を起こさせねばならない。できるだけ若いうちに、「自分の将来にとって基礎訓練はぜひとも必要である」という認識を持たせることが大切である。これがOJTの前の重要な準備教育になる。OJTとは、つまるところ自己啓発そのものであることに気付かせる。

その自己啓発(自己訓練)の第一歩は、自分の力でTODOをつくることから始まる。マーケティングやマネジメントへの挑戦は、直感のTODOを書き出すことから始まる。これが人材開発・組織開発の基礎になり、推進になる。TODOリストで日々、感性を磨く。

4.新入社員教育

主体性の必要性を自覚させるには、今日とか明日のTODOリストを書かせてみて、主体性のあるTODOを発見し、それをほめるのが一番のきっかけになる。本人の長所の肯定から始める。このスタンスが要る。同じような立場にある人の書いた主体性あるTODOリストを見せて、静かに気付かせるのもよい手である。これらは、マーケティングカンパニーの目指す企業の新入社員集合教育の第一日目、第二日目、第三日目の基本メニューであるべきだ。探すTODO、創るTODOづくりの訓練がぜひ必要である。

配属先の職場でのインストラクターによる実際指導が大切である。「育成の6段階」「自己啓発の6段階」に沿った、訓練に次ぐ訓練が必要になる。インストラクターは、実際の仕事の現場で、毎日新入社員が自主的にTODOをリストアップするよう動機付けを行なう。新入社員が作るTODOを一つ一つ評価し、解説する指導者の存在は大きい。基礎の学習に向かうTODOは高く評価されるべきである。

新入社員インストラクターを一対一で配置することがぜひとも必要になる。3年生・4年生のインストラクターにとっても、マネジメントのはじめての実際体験になる。新入社員インストラクターの教育が先行する。新入社員インストラクターの育成がうまくいくことが、人材開発、組織開発の基礎的な条件になると言ってよい。

〔第Ⅱ章 主体性の開発〕、〔第Ⅲ章〕の「新入社員インストラクター・マニュアル」をテキストにして、実習も含めて3日か4日かけて案内すれば、よい新入社員教育、新入社員インストラクター教育ができる。新入社員教育、新入社員インストラクター教育をしっかり計画し、実施し、評価することが、人材開発、組織開発の基礎になる。差別点になる。マーケティングの基礎訓練は中でも特に重要である。

5.自己啓発のTODOからマーケティングTODOへ向かわせる

マーケティングの基礎訓練は、個人の生活の中で、職場の中で、身近にある現場・現物・現実の観察から始まる。おすすめは「店頭観察」と「製品分解」である。

〔第Ⅳ章 ストアチェック〕を読み、理解していると、店頭観察は有意義なものになる。視点がはじめから違ってくる。第1回のストアチェックの体験は、新入社員集合研修中に行なわれるべきだ。製品分解は、〔第Ⅴ章 製品開発の基礎〕の「売れる/売れない分析」を読み、意義を理解してからでないと分析内容が平板なものになる。

「プロダクトマネジャー・マニュアル」を二組か三組のインストラクターと新入社員からなる小集団で輪読させてから、「ストアチェック」や「売れる/売れない分析」に移行させる。テーマは、職場のリアルな実際問題にする。職場で意味あるテーマにする。新入社員に報告書を作成させる。インストラクターの添削を、さらに上司のマネジャーが添削する。このレポートを職場会議で発表させる。

6.「ステップアップTODOリスト」によるOJT

インストラクターは、実務を持っている。営業なら営業で、マーケならマーケで目の前の実務があるが、この実務を一回一回どう計画し、どう解決していくのか、新入社員に仕事を手伝わせながら、仕事のプロセスを体験的に教えていくのがよい。このとき新入社員に自己啓発のTODOを作らせることが重要である。自らが作った「探すTODO」「創るTODO」の一つ一つが新入社員を日々鍛える。新入社員は活性化する。

インストラクターが自分の責任でやらなければならない仕事を「ステップアップTODOリスト」で計画し、その計画書を見せ、理解させ、その中のTODOの一部を新入社員に役割分担させる実務体験が、一番早道のマーケティングの基礎訓練になる。一番効率がよい。状況と目標の共有、目標達成の合意づくりができるからである。

そのインストラクターの実務のレベルアップに必要な箇所の「プロダクトマネジャー・マニュアル」をインストラクター間で輪読させ、理解させておく。「プロダクトマネジャー・マニュアル」には、もともとマネジメントの基礎やマーケティングの基礎が丁寧に解説されているから、その共有と実行でインストラクターも新入社員も大きく成長するのである。

(2011年3月度MODコラム「新入社員のマーケティングの基礎訓練-社員のマーケティングの直感力を高める-」長井和久)より